「ほくよう調査レポート」を読む

北海道のこと

※本記事に登場する調査や統計は投稿日時点の情報に基づきます

前回、日本銀行札幌支店が公表している統計を読む記事を公開しました。
それに続いて、北海道の第二地方銀行である北洋銀行の公表している「ほくよう調査レポート」から北海道経済を読み解いていきます。

そもそも「ほくよう調査レポート」というのは、北洋銀行が「道内企業の経営動向」や「北海道経済の見通し」などを取りまとめて公表しているものです。

メインコンテンツの「ほくよう調査レポート」の公表ペースはほぼ毎月(2021年以降は8・9月は合併号、他は毎月)で、40ページ前後で構成されています。
他に、定期調査で経済見通しや道内企業の経営動向調査も公表しています。

前回取り上げた日銀札幌支店の統計調査もそうですが、全道各地にネットワークを構築している北洋銀行の調査レポートは、北海道経済を把握するには有用な資料です。

公表している資料はおおむね以下の通りです。
この記事では公表資料で気になった点をいくつかピックアップしていきます。

資料の名称公表頻度資料の概要
ほくよう調査レポートほぼ毎月・道内経済の動向(主要統計のダイジェスト)
・定期調査のダイジェスト
・特集記事、コラム
経済見通し・道内企業の経営動向調査四半期業種・地域・財務等の観点で、四半期ごとに実績と見通しをアンケートにより定点観測したもの。
北海道経済の見通し年2回年度ごとの域内経済について、主要指標や業種別の動向について調査したもの。
年初に公表したのち、8月頃に改訂版を公表。
道内景気と賃金の動向について年1回景気の現状・先行き・懸念材料、賃金動向についてアンケート調査したもの。
道内企業の雇用動向と新卒採用年1回人員の過不足感や採用に関する意向をアンケート調査した者。

定期刊行している「ほくよう調査レポート」の「道内経済の動向」では以下の調査を取りまとめています。

日本銀行札幌支店の公表内容とも重複している箇所もありますが、景気の全体感に限らず、業種別の主要指標や、人の流動(来道者、外国人入国者、雇用)といった点までまとめているのが特徴です。

どれも時系列で取りまとめされているので、北海道の景気の動向はこのレポートを読むだけで概ね把握できると言えます。

調査項目資料元資料の名称
景気の現状判断DI内閣府景気ウォッチャー調査
鉱工業生産北海道経済産業局鉱工業生産・出荷・在庫指数
百貨店等販売額北海道経済産業局百貨店等販売額
乗用車新車登録台数㈳日本自動車販売協会連合会
㈳全国軽自動車協会連合会
乗用車新車登録台数
生乳生産量農林水産省生乳生産量
住宅投資国土交通省住宅着工戸数
建築物着工床面積国土交通省民間非居住用建築物(着工床面積)
公共投資北海道建設業信用保証㈱ほか2社公共工事請負金額
来道者数㈳北海道観光振興機構来道者数
外国人入国者数法務省入国管理局外国人入国者数
貿易動向函館税関貿易動向
雇用情勢北海道労働局有効求人倍率(常用)、新規求人数(前年比)
倒産動向㈱東京商工リサーチ企業倒産(負債総額1千万円以上)
消費者物価指数総務省、北海道消費者物価指数

年2回公表されている「北海道経済の見通し」ですが、こちらについて最新版(この記事の投稿日時点)を見ていきます。

この資料では、各種統計や調査に基づいて道内総生産(生産・支出の両サイド)について予測値を公表しています。つまりは Y=C+I+G+(X-M) を公表しているという事です。

この資料で気になったデータがこちらです。

出典:北洋銀行「2024年度北海道経済の見通し<改訂> 」
  • 新規求人数:先行指数
  • 有効求人倍率:一致指数
  • 雇用人員判断DI:遅行指数

という違いがあるので注意が必要です。雇用人員判断DIは不足で推移していますが、グラフの傾きが寝ています。つまり「下げ止まり」に近いと考えられ「一定の人手不足状態で推移」していると言えます(常に3人足りていない、人がいないので○時間分の残業が毎月増えた、というイメージ)。

また、設備投資の項目で独自調査として道内での主要設備投資案件をリストアップしているのが特徴的です。資料の特性上社名は伏せられておりますが、特定はほぼ可能です。
(やはり千歳の案件はケタが違いますね…融資に政府保証検討するくらいなので)

出典:北洋銀行「2024年度北海道経済の見通し<改訂> 」

上記資料は設備投資や再開発単独の投資規模なので、関連産業への経済効果も含めると金額はより多く期なるでしょう。特に千歳市周辺は川上・川下・関連産業の拠点進出の話題に事欠きません。

最終的な総生産のデータを見ていきます。生産側の道内総生産の予測値は以下の通りです。

出典:北洋銀行「2024年度北海道経済の見通し<改訂> 」

道内総生産の伸びは2.9%の予測値(対前年度比)ですが、それをけん引しているのが製造業、不動産業、保険衛生・社会事業となります。

伸び率だけで行くとコロナ禍から回復している宿泊・飲食サービス業も高いのですが、金額規模として相対的に小さいため、全体の伸び率への貢献が大きいとまでは言えません。

一方で、日本の食糧基地ともいわれる北海道ながら一次産業の伸び率がマイナスなのは気になる所です。特に水産業の落ち込みが大きく、中国へ水産物を輸出できない影響がここにも表れています。

次に「2024年 道内景気と賃金の動向について」を見ていきます。こちらは道内景気と賃金の動向に関する、アンケート調査に基づいたレポートです。

まず景気の現状の回答を見てみます。

出典:北洋銀行「2024年 道内景気と賃金の動向について」

「その他の製造業」のみ悪化していると回答している数が多ですが、他は回復していると回答している方が多いです。したがいまして、道内の景気は回復傾向であると考えている事業者が多いと言えます。

続いて景気先行きの懸念材料という項目を見てみます。

出典:北洋銀行「2024年 道内景気と賃金の動向について」

どれもコストに効いてくる要因なので事業者の関心事であるのは当然のことです。物価、内需、個人消費は前年よりも懸念が強まっています。電気料金は2年前~1年前に値上げがありましたので、それが一巡した影響でしょう。

今、賃金アップをしている企業が増えていますが、賃金をアップしても(賃金上昇率)<(物価上昇率)であれば、実質的な賃金増加(≒可処分所得の増加)にはならず、消費の実質的な増加に結び付きません。消費額が増えても、真水の消費量が増えないということになります。

景気循環のセオリーから行くと、物価上昇による買い控え→消費落ち込み→景気後退というシナリオは十分想定される話ですから、懸念が増しているというのは納得できるトレンドです。

最後に賃金の動向を見ていきます。

出典:北洋銀行「2024年 道内景気と賃金の動向について」

賃金を引き上げるのは国レベルでキャンペーンしている話なので、どれも高い水準で引上げ・増加という回答が出ています。

また、賃金見直し時の重視項目としては企業の業績はもちろん、雇用の維持・確保を見ているという回答が多いようです。人材確保という観点での賃金上昇が色濃く反映されていると言えます。

ほくよう調査レポートや関係するレポートに目を通して言えることは以下の通りです。

  • 北海道全体の動向(現在地)はこのレポートで把握ができる。ただし、地域別の指標などの込み入った調査までは(一部を除いて)把握できないため、あくまで北海道地域の全体感、という視点で読む必要がある。
  • どの調査も時系列の動向まで伝えているので、変化が把握しやすい。アンケート調査を通じた将来予測(四半期先まで)もあるため、今後の見通しに関する情報収集にも役立つ。
  • アンケート調査については事業者の生の声を反映している。この記事では触れていませんが自由記述形式での事業者の声もピックアップしており、どんな景況感、想いをもって事業をしているかを知ることができる。

次回も?金融機関の調査レポートを解説してまいります!

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