※本記事に登場する調査や統計は投稿日時点の情報に基づきます
今回は、北海道の地方銀行である北海道銀行(道銀)の公表している「北海道経済の見通し (2024年度年央改訂)」から気になった2つの箇所を解説し、北海道経済のこれからを考えてみます。
北海道銀行が公表している調査レポート
日本銀行をはじめ、金融機関では調査レポートや刊行物を公表しています。足もとの経済の動きを知る上では欠かせない情報ですし、将来を見極めるうえでとても大切な情報です。
かつては書物や紙媒体でしたが、今やインターネットを使えば無料で手に入ります。大変ありがたいことですね!
さて、北海道銀行では刊行物として、年1回の「北海道経済の見通し」のほかに、「調査ニュース」を公表しています。
「調査ニュース」は月間レポートで、足元の経済状況や特集記事で構成されています。
北海道銀行が出している「北海道経済の見通し」は、内容構成が「全国→北海道」という流れでまとめられているので、全国と比較して北海道はどうなの?という視点で読めるのが良いところです。
景気の持ち直しと値上げのせめぎあい
レポート全体を読んで目に留まるのが「持ち直し」と「物価高」という言葉です。
つまり、コロナ禍からの景気の回復(=持ち直し)は進む傾向にあるが、物価上昇や値上げが続いており、その悪影響も出てくる、ということです。
例えば、レポート4~5ページ目で触れていた分析が印象的でした。

こちらの図表は製造業のDIについて「販売価格判断DIから仕入価格判断DIを引いた差分」(灰色箇所)も示しています。レポート中の解説では、
(前略)企業の価格転嫁余地があることがうかがえる。価格転嫁を通じて企業収益の底上げ、ひいては賃上げとの好循環を持続的に行っていくことが今後の企業活動のカギとなるだろう。
北海道銀行「北海道経済の見通し (2024年度年央改訂)」5ページより
と、サラリと書いてあるのですが、価格転嫁余地との関連性がやや難解な印象を持ちました。
要するに以下の理屈です。
- 販売価格DIが「上昇>下落」なので、販売価格(=売上)は上昇トレンド
- 仕入価格DIも「上昇>下落」なので、仕入価格(=原価)は上昇トレンド
- 1.2.を比較すると「販売価格DI<仕入価格DI」(灰色の部分)
- 指数が「販売価格の上昇<仕入価格の上昇」なので、経済全体でみると、仕入価格の上昇ほど販売価格の上昇が出来ていない。
- 仕入価格の上昇分を販売価格に転嫁できれば、売上と企業収益の増加に影響する
- 企業収益が増加すると、賃金上昇に必要な資金が生まれて賃上げに繋げられる
- 結果、総生産が増加する
- 1.~7.が繰り返されると「好循環を持続的に」の状態になる
ところで「値上げ」は良くないことなのでしょうか。
私たちは、値上げ=ネガティブという印象を持ちがちですが、経済学の原理原則に照らすと、適切なインフレ(値上げ)が無ければ、経済は大きくなりません。
実際、土地の価格、大卒初任給、ジュース1本の値段…どれを見ても、50年前からは結構な値上がりをしています(気になる方はググってください)。
これは、経済的な価値が増大した結果なのです。
経済的な価値が増大というのは、あらゆるモノ・サービスの「生産」と「消費」の総量が増えたということ。
増大するというのは、経済全体で手元に残るお金(=利益)が増えた結果、使うお金(=費用)も増えるようになったということです。
逆に不景気になると、手元に残るお金を増やそうと、使うお金を減らします。
流れとしては…需要が減る→消費の総量が減る→買わない人が増える→生産が減る→仕事が減り賃金が減る+少ないお金で消費を増やそうと値下げ→値下げするので手元に残るお金(利益)も減る→経済全体として使うお金が減る→(繰り返し)…という感じです。
設備投資はラピダス進出で跳ねる!?
いま、北海道経済を語るうえで外せないのが「ラピダス」です。
大規模な設備投資で言うと、北海道新幹線札幌延伸も楽しみな案件ではあります。
しかし、開業時期の見えない延期を発表してから、札幌駅周辺の再開発もろとも、スピード感に欠けてしまった感は否めません。
札幌駅南口のエスタは2023年8月末に閉店してから1年。いつ解体工事が始まるのでしょうか。。。
そんな中でも、ラピダスは2025年4月のパイロットライン建設に向けて着々と動いています。
「実質設備投資の見通し」において2024年度が跳ねているのは、その影響が大きいと言えます。


「北海道経済の見通し」の中では以下のように言及されています。
今年度の設備投資の目玉は、次世代半導体の製造を目指すラピダス社の工場および試作ライン建設といえよう。来春の試作ライン稼働に向けて、工事が進捗しており、今年度後半には、半導体製造装置をはじめとする大規模な設備機器が設置される予定。同社の設備投資計画が数兆円に上ると報じられていることなどを勘案し、道内の設備投資を大幅に押し上げると見込んだ。
北海道銀行「北海道経済の見通し (2024年度年央改訂)」9ページより
もちろん、工場単体の経済効果もありますが、波及効果も大きいです。
少なくとも半導体の関連産業は近隣に集積するでしょうし、その事務所や雇用に伴う建設需要が発生します。投資が促進される状況が作り出されています。
千歳市周辺では工業用地不足なんて話も聞こえます。
また、工場となると大規模な電源確保も重要で、それに関連する投資も織り込まれているようです。過疎化と人口減で落ちるとされていた北海道の電力需要は、ラピダス進出で潮目が変わったと言えます。
電力需要に関しては、泊原子力発電所が再稼働すれば需給ギャップは解消されます。ですが、国の審査や政治的な理由等もあるので、先行き不安はぬぐえません。
世界的に見れば原子力発電は再エネ電源扱いなので、北海道の電力需要は再エネ電源でほぼ賄える算段になります。それでも、北海道で洋上風力や太陽光等の再エネ電源の開発を盛り上げる動きがあるのは、原子力発電所の事情が絡んでいると言えます。
北海道経済の特徴のひとつに、第2次産業(製造業)が全国平均と比べて低いという点があります(以下画像赤枠)。ラピダス進出によって、この構造がどう変わるのかも気になる所です。

まとめ
今回は2つの気になる所を取り上げました。
・景気回復する中での値上げラッシュ
・ラピダス建設による投資需要の増大
これが、2024年の北海道経済でも特に影響力を持っているというところでした。
ですが、一過性の経済に翻弄されてはなりません。
経済は、必ず景気循環をします。
ですから、盛り上がれば下がる局面は必ずきます。
逆に、盛り下がっていれば上がる局面も出てくる。
その「潮目」を常に読みながら、私たちは行動しなければなりません。
山あり谷ありの景気に翻弄されすぎることなく、少なくとも2~3手先まで読みながら事業を行う。
そんな事業者が北海道で1者でも多く増えるように、当事務所は行動していきます!
次回もまた、調査物から北海道について見ていきます!