日本銀行(日銀)札幌支店では、北海道の金融経済の動向として統計調査を毎月公表しています。
ご存じの通り、日銀の公表する指標は主要メディアのニュースで取り上げられるレベルのものであり、常に動向が注目される統計と言えます。
ニュースではよく見ますが、自分から日本銀行のWebサイトにアクセスして調べて読むことが無かったので、どんなものが調査されていて、どんなトレンドを示しているのか調べた内容をご紹介します。
※以下、ご紹介する内容は投稿時点で公表されているデータです。
日本銀行札幌支店で公表している資料
日本銀行札幌支店のWebサイトでは、定期的に以下の資料を公表しています。
ちなみに、日本銀行は札幌支店のほか、北海道内には函館、釧路に支店、帯広と旭川に事務所を持っています。
資料の名称 | 公表頻度 | 資料の概要 |
---|---|---|
企業短期経済観測調査(北海道) (いわゆる「短観」) | 四半期 | 企業活動の把握を目的に、法律に基づく定期調査の北海道版。(参考:日本銀行WebサイトのQ&A) |
北海道金融経済概況 | 毎月 | 景気判断を説明しているもの。需要、生産、雇用、物価、企業倒産、金融の観点でトレンドを月次公表している。 |
北海道地区の実質預金・貸出金 | 毎月 | 国内銀行(ゆうちょ銀行を除く)の北海道内店舗および北海道内に本店を置く信用金庫の預金・貸出金の月末残高(銀行/信金で区分)。 |
北海道地区の貸出約定平均金利 | 毎月 | 北海道内に本店を置く地方銀行・第二地方銀行および信用金庫の北海道内店舗の貸出金利を貸出金残高で加重平均したもの。 |
北海道地区の銀行券発行・還収超額 | 毎月 | 北海道にある日本銀行支店の窓口を経由した銀行券の発行(支払)・還収(受入)超過額を集計したもの。 |
短観で公表されている資料
短期経済観測調査(短観)では、支店ごとの結果についても公表されています。
北海道の過去からの推移はこちらです。

こう見ると、統計開始以来、業況判断は総じて悪い期間が占めている感じですが、リーマンショック明けて以降(2012年以降)は良い方向で推移しています。コロナ禍で一瞬落ち込んだものも、徐々に取り戻していることが分かります。
金融経済概況で説明されている資料
北海道金融経済概況では、毎月の景気動向について発表されています。以下画像の「総括判断」はニュースでも毎月取り上げられているので、見聞きした方も多いと思います。

全体的な動きを示す総括判断に限らず、需要(公共投資、個人投資、設備投資、輸出、住宅投資)、生産、雇用・所得といった各論で月次の経済動向を公表しています。
こう見ると、北海道全体では住宅投資を除くと概ね前向きな判断が示されています。
2024年6月の全道各支店・事務所の項目を比較してみました(赤の濃さ:増加・強い⇔青の濃さ:減少・弱い で色分けしました)。

比較して見えるところは以下の通りです。
- 需要項目:住宅投資を除いて持ち直し~増加トレンド。
- 生産:横ばい~下げ止まりと弱い様子。需要項目が強いのを踏まえると、在庫消費が進んで今後持ち直す可能性が考えられる(=今は在庫消費で需給バランスor需要超過していると推測される)。
- 雇用は、道東・十勝・道南ではタイト。道北や北海道全体と比べると人手不足感があるか。
また、物価や企業倒産に関する動向は以下の通りです。倒産が増加していることが気になります。金融動向は、預金・貸出の増減、金利の高低には良し悪しありますので、色分けしていません。

ちなみに倒産件数の動向について調べてみました(下表参照)。
増加とはいえコロナ前に比べて低水準ではありますが、R6(2024)年6月末時点で全産業で140件、負債金額202.8億円で、R3(2021)年を既に上回り、R4(2022)年、R5(2023)年を上回る可能性が高いです。

経済産業省や中小企業庁は、コロナ禍に始まった資金繰り支援の政策を終わらせる方針を打ち出しています。各種支援策も概ね年内を目途に終了する方向です。
足もとはゼロゼロ融資の返済が進行中です。ゼロゼロ融資で借入し、コロナ前より返済負担が重く資金繰りが厳しい事業者もいます。それが倒産件数や金額のどれほどを占めているかは分かりませんが、関係が無いとは言い切れないでしょう。
全道各地の日銀支店・事務所の公表資料の特徴
北海道各地の日本銀行の各支店・事務所では、金融経済概況の発表資料に、地域性あるデータを発表しています。6月度公表資料では以下の内容に言及があります。
特に函館支店では観光業界の動向として函館山ロープウェイや五稜郭タワーの利用客数を見ているところが特徴的です。

まとめ
各支店・事務所の資料を踏まえると、地域の企業の支援を行う際には、以下の点が注意と考えます。
- 地域によって景気動向の濃淡、経済指標のバロメーターがある(例:観光動向の把握に函館山ロープウェイ利用客数をウォッチしている等)。また、地域差もあることから、地域固有の情勢も踏まえたマクロデータを抑える必要がある。
- 札幌支店では北海道全体の統計は公表されているが、札幌支店管轄(道央地域)のデータ公表は無い。
- 断面で語りすぎず、トレンドで抑える必要がある。例えば「下げ止まる」とあっても、どこから下がり始めたのか、どの水準から下がったのか等、中長期的に比較した良し悪しを見ていく必要がある。
今後も、各金融機関の調査レポート等を解説してまいります!