道民経済計算から北海道の産業構造を見る

北海道のこと

北海道庁では毎年「道民経済計算」というものを公表しています。
これは「国民経済計算」の北海道版です。「三面等価の原則」に基づき生産・分配・支出の面から総生産(経済活用により生み出された総額)を示しています。
今回は、この道民経済計算から北海道の産業構造について見ていきます。

産業構造の全体感

まず、全国のデータと北海道のデータを比較します。まず、経済成長率についてです。

北海道庁経済部「令和3年度(2021年度)道民経済計算年報」pp.2より

北海道の経済成長率(実質)は、全国と比べて大きい違いはありません。
直近10か年では、全国より下回っている年が7回、上回っている年が3回(H25,H29,R1年度)あります。

次に、総生産のデータを見ます。

北海道庁経済部「令和3年度(2021年度)道民経済計算年報」pp.3より

北海道の総生産は、直近10か年では全国シェアで3.6~3.7%と一定しています。全国順位で8位で、7位は千葉県、9位が福岡県です。

ちなみに、支店経済都市の「札仙広福」に属する道県で比較すると以下の通りです。

  • 北海道(札幌市):8位
  • 宮城県(仙台市):14位
  • 広島県(広島市):12位
  • 福岡県(福岡市):9位

産業別の特徴

以下のグラフは生産側の構成比を全国と比較したものです。

北海道庁経済部「令和3年度(2021年度)道民経済計算年報」pp.6より

産業別の特徴は以下の通りです。

  • 農林水産業は全国(1.0%)と比べ約4倍(3.9%)
  • 製造業は全国(20.9%)と比べて約半分(9.6%)
  • 建設業は全国(5.6%)よりやや割合が高い(8.1%)
  • 保険衛生・社会事業(医療・介護・福祉等)は全国(8.2%)より高い(11.3%)

次に、生産額の全国シェアを踏まえて産業構造を見てまいります。

北海道庁経済部「令和3年度(2021年度)道民経済計算年報」pp.7より

全国シェアで見ると、農業と水産業のシェアが特に高く、製造業のシェアが低いです。
(よく言われることですが、データで見ると一目瞭然です)

農業は、耕地面積が全国比の約4分の1を占めております。小麦、大豆、馬鈴しょ、てん菜などの畑作物やたまねぎ、かぼちゃ、スイートコーンなどの野菜、生乳や牛肉など数多くの農畜産物が全国第1位の生産量となっています(北海道庁「北海道データブック2024」より)。

また、水産業も漁獲量・金額ともに都道府県別1位でホタテガイ、スケトウダラ、ホッケ、サケ、サンマ、コンブは、道産の占める割合が高く、都道府県別第1位の生産となっています(北海道庁「北海道データブック2024」より)。

製造業が全国に比べて少ないと言われる北海道ですが、製造業の構成比をみると食料品が37.0%とダントツで多く(下円グラフ参照)、農林水産業で全国1位であることの関係性が現れています。

2023年経済構造実態調査(産業横断調査)によると、全国の食品製造業は売上額ベースで構成比2.1%なので、製造業の構成比は食品製造業に依存していると言えます。ですから、非食品の製造業は全国的に比べて特に少ない地域と言えそうです。

北海道庁「北海道データブック2024_工業・企業立地」より

上の円グラフは製造業の経済活動特化係数を示したものです。経済活動特化係数とは、産業の域内シェア(ここでいうと道内でのシェア)を全国と指数で比較したものです。1.0より高ければ全国平均よりシェアや経済活動が高い産業となります。

北海道の場合、食料品、石油・石炭製品、パルプ・紙・紙加工品、窯業・土石製品、印刷業、金属製品が全国平均より高い地域です。

食料品は全道的ですが、次ぐ石油・石炭製品、パルプ・紙・紙加工品は胆振(苫小牧~室蘭エリア)や釧路周辺の産業がけん引していると考えられます。

一人あたり所得・可処分所得

北海道庁経済部「令和3年度(2021年度)道民経済計算年報」pp.23より

北海道の一人あたりの所得は、一貫して全国平均の9割弱で推移しています。国民所得の増加に伴って道民所得も緩やかに増加しています。

次に可処分所得で比較します。

北海道庁経済部「令和3年度(2021年度)道民経済計算年報」pp.25より

可処分所得でも全国を下回っていたのですが、令和元年度から全国平均を上回って推移しています。

したがって、北海道民1人あたりの所得は全国平均を下回るが、可処分所得で見た場合は全国平均より高いといえます。

地域別の特徴

次は地域別の特徴を見ていきます。その前に…北海道になじみのない方向けに、振興局と所在地の地図をお示しします。振興局とは簡単に言うと、北海道庁の支局(出先機関)です。

「札幌」「旭川」「函館」は多くの方が分かると思いますが、これを「石狩」「上川」「渡島おしま」と脳内変換する必要があります。

まず、総生産のシェアです。やはり札幌市がある石狩振興局がダントツの1位(46.7%)でした。次いで室蘭市と苫小牧市が所在する胆振いぶり、旭川市の所在する上川、帯広市の所在する十勝と続きます。

北海道庁経済部「令和3年度(2021年度)道民経済計算年報」pp.52より

次に1人あたりの総生産です。

北海道庁経済部「令和3年度(2021年度)道民経済計算年報」pp.42を一部加工

1位は根室振興局、2位が宗谷振興局、3位が胆振総合振興局と続きます。この地域は1人あたりの稼ぐ額が大きいという事です。主要産業にどんなものがあるか見ていきましょう。

北海道庁経済部「令和3年度(2021年度)道民経済計算年報」pp.65,77,85を加工して作成

根室、宗谷、胆振の順に産業別の構成比を並べました。
データに出ている通り、根室、宗谷は共に農林水産業(ほぼ酪農と水産)が盛んな地域です。胆振は製造業ですが、鉄鋼業のある室蘭市や、製紙・石油化学・自動車を持つ苫小牧市の貢献が大きいと言えます。

北海道庁経済部「令和3年度(2021年度)道民経済計算年報」pp.44を一部加工

次に農業の振興局別のシェアです。十勝総合振興局(帯広市)、オホーツク総合振興局(網走市)、根室振興局(根室市)と続きます。

北海道を日高山脈~大雪山系~北見山地のラインで仕切った時、おおむね東西に分かれるのですが、北海道の東側に位置する十勝・オホーツク・根室・釧路の4振興局でシェアは57.5%を占めます。

北海道庁経済部「令和3年度(2021年度)道民経済計算年報」pp.46を一部加工

続いて水産業の振興局別のシェアです。オホーツク総合振興局(網走市)、宗谷総合振興局(稚内市)、根室振興局(根室市)、渡島総合振興局(函館市)と続きます。
この4振興局でシェア74.0%と約4分の3を占めます。

オホーツク(ホタテ)、根室(花咲ガニ・サンマ)、稚内(カニ・タコ)、函館市(イカ)と水産物が連想できる地域が上位シェアを占めています。

北海道庁経済部「令和3年度(2021年度)道民経済計算年報」pp.48を一部加工

製造業のシェアは、室蘭市と苫小牧市を持つ胆振総合振興局が1位で、次いで札幌市と石狩市が所在する石狩振興局と続きます。石狩・胆振でシェアは54.6%と北海道の過半数を占めています。

北海道庁経済部「令和3年度(2021年度)道民経済計算年報」pp.50を一部加工

最後に建設業のシェアを見ます。石狩振興局がダントツで1位(36.0%)であるほかは10%以下のシェアとなっています。人口や産業が集中している札幌圏は開発が盛んなこともあり(特に足もとは北海道新幹線や半導体産業に関係する案件が多い)、シェアが高いことが考えられます。

まとめ

北海道の産業構造は、以下のことが言えます。

  1. 総生産は都道府県別で全国8位で、約20兆円の生産額である。
  2. 想定的に農林水産業が大きく、製造業が少ない。製造業も食品製造業が多いので、非食品の製造業の割合が少ない地域である。
  3. 1人あたりの所得は全国を下回るが、可処分所得は全国を上回っている。
  4. 振興局別総生産は石狩振興局が1位だが、一人あたりに置き換えると根室振興局、宗谷総合振興局、胆振総合振興局の順位で高い。
  5. 産業別でみると、特定の振興局でシェアの過半数を占めている状況にある。農業、水産業、製造業、建設業で見ると、地域の産業の特色が顕著に出ている。

また、次回もよろしくお願いいたします!

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