2024年、コロナ禍を終えて中小企業を取り巻く環境は新たな局面に移行したと言えます。
今年1年、北海道各地の事業者、金融機関、公的機関の方々と日々面会し、経営に関する議論をいくつも行ってまいりました。
その中で、中小企業診断士試験で勉強した内容だけでは太刀打ちできない知識が、現場では求められていると思いました。
今日は「必要な3つの知識」として取り上げていきます。
それぞれ別テーマで記事にしてもいいくらいの話題ですが、長くなるのでデータを示しながら障りだけ説明します。
「人的資源」に関する知識
経営資源は「ヒト・モノ・カネ・情報」今ではこれに加えて「時間」「知的財産」「ブランド」等も指す場合があります。
「人的資源」とは要するに経営資源の「ヒト」に関する項目です。
ヒトと言っても、採用‐雇用中‐退職と幅が広く、年齢も性別もあれば、一言でこれという掴みどころがないのもまた「ヒト」という経営資源の特徴です。
- 採用に関する課題
- 定着率(離職)に関する課題
- ミスマッチの課題(ローパフォーマー、適任者が採れない)
- 育成・成長機会の付与
- 退職後のトラブル
中小企業白書・小規模企業白書では以下のようなデータが示され、中小企業における経営課題で「求人難」が大きな割合を占めていることが分かります。
具体的な状況は前回の記事でもご紹介しているので詳細は割愛しますが、
求人難→人手不足→受注量に応えられず失注・機会損失/営業力が低下→売上減少→資金繰りが厳しくなる→労務倒産
という流れが、今後さらに加速すると見ています。
実際に、人手不足による倒産は過去最高水準となっています。
対応策は、課題によって様々ですが、ザっと以下のような取り組みを、企業の実態に応じて助言・伴走支援しています。
採用 | マーケティングの視点による改善 (私は採用=マーケティングだと思います) |
定着率・離職 | 社内コミュニケーション改善、マネジメント力向上 組織づくり、目標管理 |
ミスマッチ | シナリオ策定とコミュニケーション支援 |
育成・成長機会 | 時間の創出(効率化)、教材ツール導入 |
退職後トラブル | シナリオ策定とコミュニケーション支援 ※法的な対応が出る場合は弁護士さん |
「資金繰り」に関する知識
個人的には「キャッシュフロー」というより「資金繰り」という側面での支援が大事だと思っています。
中小企業診断士試験にも試験問題で出た実績はありますが、中小企業支援になると「Xデー見えている」案件に遭遇することも、ありえます。
そんなときは、試験勉強した知識、みんな大好き財務分析では太刀打ちできません。そんなレベルなら、金融機関が手を打っています。
では、中小企業診断士などの専門家に求められているのは何か―
私は以下だと考えています。
ほとんど「経営改善計画」を作るポイントに同じです。
- 売上-費用=利益 の分解・積上
- FCFを最大化するためのシミュレーションと戦略策定
- 経営者に行動を促す傾聴と対話
- マクロ経済環境、金融政策を咀嚼し事業者の理解を得る
- 金融機関と事業者の合意形成の支援
(=経営者が腹落ちしている経営改善計画)
2024年11月末、経済産業省から「2025年1月以降の中小企業向け資金繰り支援について」が発表されました。
資金繰り支援は継続するものの、コロナ禍のような「とりあえず資金繰りを繋ごう」という方針とは距離を取る形と見受けられます。ただ、2024年以上に渋い方向になるかというと、手を変え品を変えほぼ継続な印象もあります。
しかし、コロナ禍やその直後(2023年ころ)と比べて、経営の改善だけではなく、伸長や強靭化等も絡めて、意欲のある企業こそ存続されるべきという方針を感じます。
実際、リスケ(返済条件の変更など)の話をすると「元金据え置きはもう無理ですからね」という金融機関の意向を聞きます。
これは、金融庁が政策として号令をかけている側面もあります。
※金融機関の信用面・経営面からの要請は言うまでもなく
ただ、元金据置が無理なのに、手を打っていないかというと、そうでもありません。
上記のグラフのように、ゼロゼロ融資を借換している先が全体の19.4%を占めています。
業績や財務状況、経営資源の状況次第ではありますが、金融機関も借換や組み直し等、やれる範囲・目が行き届く範囲で最大限の支援を行っている印象があります(※私が関わっている・聞いている範囲なので北海道の一部だけかもしれません)。
少し話は逸れますが、補助金や助成金も資金繰りの緩和アイテムの一つです。コロナ禍にかなり大胆な財政出動があったせいか、今は補助金助成金が当たり前になっている感はあります。
それは、政府が所得の再分配機能を有しているという意味では正しいので否定しません。
しかし、補助金助成金が無いとビジネスが出来ないような企業は、資本主義経済の原理原則からいくと、事業性に疑問があると言わざるを得ません。
話を戻しますが、資金繰りに関するテーマとなると、以下のような支援を行っております。
事業性評価 | そもそも収益(営業CFプラス)が必要額出せるか検証 ※経営者の事業継続意思が大前提 |
リファイナンス | 借換、債務一本化、条件変更等 (経営改善計画策定支援まで行うかは状況による) |
売上単価見直し | 値上げ交渉、値上げ幅算定 |
売上数量見直し | 販路拡大、受注見通し見える化、売上目標管理 |
費用単価見直し | スイッチング、価格交渉、内製化、不要不急判定 |
費用数量見直し | 仕入方法見直し、内製化 |
計数管理 | 資金繰り表の作成、管理会計導入 |
「事業承継」に関する知識
いまでも「事業継承」と言われたりするほど、言葉はまだ定着できていませんが、足元の日本の中小企業にとって最も大きなテーマはこの事業承継だと思います。
直近の中小企業白書・小規模企業白書でも言及があるように、主に経営者の高齢化、後継者不在、承継時の課題等が挙げられます。
全ての企業に後継者が必要、というつもりはありません。
経営者の意思、経営(資源の)状況、経営環境により様々な出口戦略が採られてしかるべきです。
- 親族内承継(同族経営)
- 親族外承継(親族外役員・従業員・外部人材へ承継)
- 第三者承継(M&A)
- 廃業支援
などなど…
いずれも、今の経営者のことだけ考えればよいのではありません。
継続するにも廃業するにも、迷惑をかけない形(ソフトランディング)であれば、ステークホルダーやサプライチェーンといった観点まで巻き取って最適解を考える必要があります。
登場人物も多い、動く資源も多岐にわたる、支援者の登場人物も多岐にわたる…一筋縄ではいかぬテーマが事業承継なのです。
ですから、求められる知識も先の「人的資源」「資金繰り」よりも、幅が広いという印象を持っています。
こちらは先の図表の一部を拡大したものです。
実は「特にない」が最多割合だったりしますが、様々な課題が挙げられているのはわかると思います。
そして、経営者の高齢化という話を先にしましたけれども、どんな経営課題の話をしていても、多くの場合「次の経営者」という話題が出てくる可能性は高いのです。
これは実際にあった話ですが、10年の経営改善計画を策定した際に、社長から「10年後かあ…自分○○歳だなあ。会社どうなるんだろうなあ」と言われたことがあります。そうなると、自然と後継者の話になってくる。
特に、経営相談が人的資源や資金繰りに関するテーマだったとしても、従業員に親族がいるとか、経営者から自ら「○年後には会社を継がせる予定」「後継者何人かいて…」なんて切り出しがあれば、事業承継も見据えた助言と伴走支援になってくるのです。
ここを、
「税務も絡むので顧問税理士さんに聞きましょう」とか
「登記に関しては司法書士の先生に」とか
「いやぁーどこも後継者難で大変ですよねえ」と世間話で流すとか
中小企業の経営に関する専門家が、そんな態度では信頼されません。
せめて「前捌き」くらいの話はしたいものです。
税務や法務は専門家の士業の方がアドバイスしなければなりません。
手続きもしかるべき専門家が行わなければならない。
そこを
「詳しい先生を紹介しましょうか」と提案できたり
「その話は○○に相談したほうがいいですね。私からお繋しましょうか」
というだけで、十分な「前捌き」だと思うのです。これを言えるかどうかだけでも、事業者のためになる思います。
今回は「現場の中小企業診断士に必要な3つの知識」として「人的資源」「資金繰り」「事業承継」についてお話しました。
今後も、現場で感じたことをデータを交えながらお伝えいたします!