中小企業診断士が国家資格という根拠は「中小企業支援法」にあります。
ただし、法律条文上で「中小企業診断士」という言葉は出てこず「中小企業の経営診断の業務に従事する者」と明記されています。
(中小企業の経営診断の業務に従事する者の登録)
中小企業支援法 第11条より
第十一条 経済産業大臣は、中小企業者がその経営資源に関し適切な経営の診断及び経営に関する助言(以下単に「経営診断」という。)を受ける機会を確保するため、登録簿を備え、中小企業の経営診断の業務に従事する者であつて次の各号のいずれかに該当するものに関する事項を登録する。
一 次条第一項の試験に合格し、かつ、経済産業省令で定める実務の経験その他の条件に適合する者
二 前号に掲げる者と同等以上の能力を有すると認められる者で、経済産業省令で定めるもの
2 前項の規定により登録すべき事項及びその登録の手続は、経済産業省令で定める。
この法律に基づく経済産業省令「中小企業支援事業の実施に関する基準を定める省令」(以降、省令と略します。)に「中小企業診断士」が明記されています。
(診断又は助言の方法)
中小企業支援事業の実施に関する基準を定める省令 第4条
第四条 経営の診断(以下単に「診断」という。)又は経営に関する助言(以下単に「助言」という。)は、中小企業診断士(法第十一条第一項の規定による登録を受けた者をいう。以下同じ。)その他の中小企業の経営方法に関する専門的な知識及び経験を有すると認められる者がこれを担当するものとし、かつ、近年における新たな経営方法の開発の成果を活用すること等により、診断又は助言を依頼した者の必要に即して適切に行うようにするものとする。
中小企業支援法は昭和38年(1963年)に制定された法律で、平成12年(2000年)までは「中小企業指導法」と言いました。
「伴走支援」という言葉が飛び交う昨今ですが、制定当時は中小企業「指導」という目的だったのですね。時代を感じますね。今もこの名称が残っていたなら「中小企業診断士にマウントされたくない!」と言われそうです。。。
省令と中小企業診断士の役割
中小企業診断士の役割が中小企業の「診断」と「助言」であることが法律と省令から理解できたかと思います。省令にはさらに「診断」と「助言」の定義も記載されています。
2 診断又は助言を行うに当たつては、診断又は助言を依頼した者が必要とする事項を的確に把握し、診断又は助言を担当する者を適切に選定する等のため、窓口相談等の方法を活用するものとする。
中小企業支援事業の実施に関する基準を定める省令 第4条第2号、同第3号(抜粋)
3 診断又は助言の種類は、次のとおりとする。
一 一般診断助言(中小企業者に対して個別に行う診断若しくは助言又はその集団に対して行う診断若しくは助言(次号に掲げるものを除く。)をいう。)
二 設備導入等促進診断(※以降、省略)
第2号(太字箇所)に、依頼者(≒中小企業経営者)のニーズを把握しなさいよ!と記載されています。ヒアリングのことです。
中小企業診断士を登録する際に実務補修や実務従事(実習)を行いますが、まず経営者のヒアリングを行うことを指導されます。省令に基づいた内容が実習生に仕込まれるわけです。
そして、省令では診断と助言の種類まで明言されていますね。
現場でここまで厳密に説明される方は居ないと思いますが(例えば「今回の私の業務は『設備導入等促進診断』です」と事業者に話すことはないはず)、公的機関から中小企業診断士に依頼が行く業務は、概ねここに根拠があり、ここの解釈に基づいていると言えそうです。
「伴走支援」が大事な今日、広がる役割!?
中小企業診断士の資格は、法令や省令に基づくと「診断」と「助言」と定義されていますが、実務上はそこに留まっていません。
実際に中小企業庁が「経営力再構築伴走支援ガイドライン」を発表して以降、実行フェーズの支援に力を入れたい様子が伺えます。
組織開発の第一人者で「プロセス・コンサルテーション」を提唱したエドガー.H.シャインは、人や組織への支援には、①専門家型(情報-購入型)、②医師-患者型、③プロセス・コンサルテーション型の3つがあると分類しています。①は顧客が必要としている具体的な知識やサービスを専門家が提供する支援、②は医師が患者を診断・治療するように、顧客の状態を診断し、処方箋や専門的なサービスを提供する支援、③は実際に必要な支援策を判断する際、支援する側だけでなく顧客も参加して共同で調査し、顧客から必要な情報をすべて打ち明けてもらえるほどの信頼関係を築く支援です。
中小企業庁、独立行政法人中小企業基盤整備機構、経営力再構築伴走支援推進協議会「経営力再構築伴走支援ガイドライン」p.9
もちろん、一時点の診断と助言にも価値はあります(※中小企業診断士がちゃんとやっていれば)。
しかし、「どう進めればよいのか」という疑問や、「進めるリソースが無い」「進めたけど行き詰った」という話になった時、診断と助言では物足りない、となってしまいます。
ですから、今の中小企業診断士は「診断」と「助言」に留まらない活躍が、現場に求められているのではないでしょうか。
私が中小企業大学校で認定支援機関の研修を受けた際、講師の先生から頂いた言葉を紹介します。
現場は診断と助言だけでは足りません。必ず道具を置いていきなさい。
そこまでやらないと、事業者は自走できません。
道具を置いていかなければ、いつまで経っても私たち支援者の手から離れません。
私はこの言葉を聞いてから「道具で自走できる支援」を目指すこととしました。
自走できる支援をしなければ、より多くの事業者を支援できません。
そして、多くの事業者を支援しなければ、北海道の経済を盛り上げるという目的が果たせないからです。
診断と助言という役割だけでは、現実のニーズマッチしていない状況ではないか?と考えます。
では、また!