本格化する中小企業の経営改善・事業再生支援

中小企業診断士

※本記事は投稿日時点の情報に基づきます

コロナ禍に発動したゼロゼロ融資が行われてから5年が経ちました。
ゼロゼロ融資を通じて、多くの企業は資金繰りの難局を回避し、コロナ禍による大倒産を回避することに成功したと言えます。

しかし、借りたものは返さねばなりません。
1年後経って、据置期間元金返済のフェーズが徐々に始まって以降、影響が少しずつ出てきたのは事実です。ただ、これらも信用保証や借換の制度充実が上手く機能し、国の経済活動に大きな影響を及ぼすことはありませんでした。

支援策については、2024年7月以降「コロナ前の支援水準に戻しつつ、経営改善・再生支援に重点を置いた資金繰り支援を基本」という宣言がなされ、コロナ禍に端を発した資金繰り支援は一区切りをつけ、新たなステージへの移行が示されました。

今回は、この新たなステージで国が何を目指しているのか、その中で中小企業診断士が求められれている役割は何かについて考察してまいります。

まず、2024年3月に経済産業省から、金融庁、財務省との連名で「再生支援の総合的対策」というものが策定・発表されました。要旨は以下の通りです。

  1. ①コロナ資金繰り支援を2024年6月末まで延長すると共に、②保証付融資の増大や再生支援等の支援強化。
  2. 2024年7月以降はコロナ前の支援水準に戻しつつ、経営改善・再生支援に重点を置いた資金繰り支援を基本とする方向。ただし、能登半島地震の被災地域については配慮。

その結果、ゼロゼロ融資からの単なる借換やリスケという(出口戦略のないとりあえず的な)案件については、一定の見切りをつけたと言えます。

結局、2024年7月以降はコロナ禍に端を発した資金繰り支援は概ね終了(もしくは終了期日の宣言)となりました。暦年2025年以降は事実上「平時」という扱いと言えます。

経済産業省2024年6月プレスリリース「今後の中小企業向け資金繰り支援について公表します」より

(私は伝家の宝刀って勝手に呼んでましたが)「セーフティネット保証4号」のコロナに起因するものも、2024年6月で終了しました。

以降は、他のセーフティネット保証を適用して保証付融資を引き出せるかどうか、という流れになっています(ただ、5号の指定業種が多いので、通せる確率は比較的高い印象)。

※この時期でコロナ融資に関連して資金繰りのニーズがあるという事は、財務が相応に厳しい状態です。プロパー融資はほぼ不可能なので、保証制度か公庫の制度融資を使う選択肢となります。

また、保証付融資については先の「再生支援の総合的対策」でも拡充する方針が打ち出されたため、去年から新しい保証制度が続々とリリースされています(詳細は長くなるので割愛)。
これらを上手く活用するのも手段です。

再生支援の総合的対策の内容に基づき、私が現場で支援した感触を踏まえると、各種対策は以下のような具合と見ております。

  1. 信用保証協会による支援の強化…保証制度充実で多様な手段が出てきた。
  2. 中小企業活性化協議会による支援の強化…こちらも相談件数増加、過去最多
  3. 再生ファンド(中小機構出資)による支援の強化…???
  4. 民間金融機関による支援の強化…金融機関によってまちまちだが、概ねコロナ前のスタンスなので強化しているとまでは言いにくい感じ。
  5. 政府系金融機関による支援の強化…制度充実したが審査はコロナ禍より厳格化。
  6. 関係省庁の連携による支援の強化…???

2025年3月、経済産業省から同じく金融庁、財務省連名で「再生・再チャレンジ支援円滑化パッケージ」が公表されました。

こちらは、中小企業活性化協議会の相談件数が過去最多になったことを踏まえて、再生支援を強化しようと立ち上げたものです。

よく経営改善や事業再生の現場でよく言われるのは

「なぜ、もっと早く持ってこなかったのか」

つまり、経営が苦しくなる予兆がある時点で相談すれば、こんな深刻な事態にならなかったよね、という意味です。

そこで、パッケージの1番目に「早期相談に向けた取組強化」が打ち出されています。

経済産業省・金融庁・財務省「再生・再チャレンジ支援円滑化パッケージ」より

支援側(活性化協議会、信用保証協会、金融機関)の現場が動くような仕組みが多いので、現場の負担感が増すことは確実ですね…支援状況の集計とか、モニタリング結果の取りまとめとか、報告に向けた事務作業も増えそうですね。

ということで、支援機関が事業者の現場に出向く時間が割けないことも想定されます(打ち合わせに帯同する、案件を主体的に進める等)。そうなると、中小企業診断士が主体的に前線で案件対応を行う、といったこともありそうです。

このほかにも、パッケージの中では「事業再生支援の体制強化」「その他経営改善・事業再生に資する支援インフラの整備」ということで、各種施策が打ち出されています。

2025年3月17日「第2回挑戦する中小企業の経営改善・再生支援強化会議」というものが開催されました。

「第2回挑戦する中小企業の経営改善・再生支援強化会議」配布資料より

そうそうたる出席者です。この中で取り上げられた内容を一部抜粋します。
(経済産業省2024年3月「第2回挑戦する中小企業の経営改善・再生支援強化会議を開催しました」より抜粋)

本会合において、武藤経済産業大臣からは、(中略)

  • 参加者全体に対し、経営状況の悪化が進んだ段階での相談にならないよう、早期に必要な支援を提供できる体制を構築すること

等、中小企業の経営改善や再生への取組に対する積極的な支援を各機関の代表者に要請しました。

参加機関・団体からは、事業者への経営改善・再生支援に関する足元での取組内容や再生支援等の促進に向けた決意と要望について発言がありました。(以下略)

御前会議のようなメンバーで、経済産業大臣から「経営が悪化する前に支援できる仕組みを構築するように」そして「経営改善や再生には積極的に支援するように」という号令がかかったのです。

悪化する前に支援とは、試算表をまめに見る等、かつての金融機関の営業担当をイメージしているのでしょうか。

予兆を掴めたらベストですが、すでに予備軍はたくさんいるという印象です。ですから、「経営改善や再生への取組に対する積極的な支援」ニーズはゴロゴロ転がっていると考えます。

少なくとも、今年度からしばらくは「経営改善」と「再生」が、公的機関から中小企業診断士へ依頼される仕事として、メインボリュームになるのではないかと思います。

以前、中小企業活性化協議会の方と面会した時に、こんなことを言われました。

以前は、活性化協議会というと「大手術を行う」というくらいのイメージで見られていた。でも、国の方針が変わって「予兆があれば事前に持ってきて」という方針に変化している。

だから、気になる案件は遠慮せずどんどん持ってきてほしい。スキームを使うか判断するために、まずはノンネーム(※社名等を伏せた状態)で相談頂いても構わない。

また、補佐人制度も始まり、案件に関わる機会も提供できるから、良かったら登録をお願いしたい。

補佐人制度というのは、協議会案件の外部専門家を補佐することを通じて、協議会案件のトレーニングを行うような仕組みです。再生案件の担い手を増やすための仕組みが、活性化協議会の中で体系化されたのです。

なお、事業再生は「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」に沿って行うため、中小企業診断士単独での案件遂行はほぼ不可能です。事業DD(事業性の評価)は中小企業診断士で可能ですが、財務DDは税理士または公認会計士、ほか法務DDや労務DDがある場合は相応の専門家(弁護士など)への依頼が必要です。

時の流れを見ると、経営改善も事業再生もかねてから中小企業診断士は支援に関わってきました。
これからは、段違いに深く関与していく局面に来ていると考えます。

では、また!

タイトルとURLをコピーしました